人事制度について

人事コンサルタントであるから、人事制度の設計についてはお手の物でしょう、といわれることがある。しかし実際は、そう簡単ではない。

これは、人事制度というものをどのように考えているかによるところが大きい。クライアントである企業の人事部門の方々の中には、何かのテンプレートをもとにカスタマイズすれば体裁よくできる、と考えている方々も少なからず存在する。この考え方は、あながち間違いではない。例えば、労働法改正や育児介護休業法のような法令対応のための制度改定や新制度の導入は、これに当てはまる。

しかし、等級制度・報酬制度・評価制度といった基幹人事制度は、この範疇に入れるべきではないと私は考えている。それは、制度というものの成り立ちがそもそも異なるからだ。

人事制度とは、組織の中で「人」に関する業務手順と意思決定を簡素化し、その効果を公平・平等に従業員へ帰属させることを意図して設計された仕組みである。この点は、法令対応の新制度も報酬制度も変わらない。異なるのは、意思決定の部分だ。

法令対応の場合、経営の意思はほとんど反映されない。そもそも法令を遵守するためのルールであり、制度を策定した時点で、すべてのステークホルダーに対して「法を守ります」という意思を明確に示している。

一方、評価制度はどうか。社員をどのように評価し、その結果としてどのような処遇を社員に帰属させるのか。これはすべて会社の意思によって決まる。コンサルタントが持参したひな形をそのまま活用すること自体は問題ないが、最終的に決定した制度は、会社が自らの意思で選び取ったものとして取り扱わなければならない。

また、制度という仕組みの特性上、公平・平等に運用されることが前提となる。使い勝手が悪いからといって、場面によって別のルールを適用することは許されない。それを許せば制度そのものの信頼性は失われ、結局、制度が存在しないのと同じ状況を招くことになる。

そしてもう一つ、見落とされがちな視点がある。制度を作ると、予算が発生するということだ。特に規模の小さな企業ではこの点が問題になりやすい。制度とは、意思決定の基準や業務プロセスの標準化だけを意味するのではない。制度があってはじめて、コストの予算化が可能になる。

業績連動型の組織に変えたいと考える経営者は多い。しかし、評価制度を刷新することで、どれほどの追加コストと運用工数が発生するのかを、まず最初に見積もらなければならない。莫大な工数を評価に費やしながら、社員への見返りがほとんどないのであれば、従業員の失望は大きい。場合によっては、評価を最低限にとどめ、勤続年数に応じた一律の決算賞与で対応する方が、エンゲージメントへの悪影響をよほど抑えられるケースもある。

冒頭に「難しい」と述べたのは、まさにこの点にある。人事制度の設計は、テンプレートの善し悪しではなく、経営の意思・運用の公平性・そしてコストの現実、この三つを同時に扱う営みだからだ。制度=お金である。このことは、決して忘れてはならない。